また、明日。

マイペースにやってます。

映画 『ヒメアノ~ル』

軽い気持ちで見るんじゃなかった。

 

見たことを後悔するわけではないけれど、見ないほうがよかったと想わざるをえない。とにかく記憶に突き刺さったトゲをグリグリするような、心をゴリゴリ削るような映画だった。そして確実にずっと記憶に残る一本だ。

 


ヒメアノ~ル PV

 

もともとはV6の森田剛くんが出てるというので興味を持った映画だ。共演者は今をときめくムロツヨシ濱田岳だし、原作は古谷実だし、これはもう軽いアイドル映画的な?かわいい感じな?それなりに面白くてそれなりに泣けちゃう類のやつでしょ?とどこかで思っていた気がする。ところがそれは裏切られる。そんな生易しい映画ではなかった。

 

 

連続殺人犯となる森田くん(この名前がまたつらい)は異常なのか正常なのか。むしろ主人公岡田くんの先輩・安藤さんのほうがよほど社会に溶け込めていない「おかしな人」に見える。二人の部屋の様子を比べても、こざっぱりしている森田くんの部屋に対し、安藤さんのほうはチェーンソーがおいてあったりごちゃごちゃしていて汚部屋の部類だ。しかし後輩である岡田くんを守り、友と呼び、仕事もきちんとしている様子は社会との接点を感じる。ベッドの上で岡田くんに話しかける安藤さんは、岡田くんという社会とのつながりにすがりついている様子すら伺える。一方、森田くんにとって岡田くんは同級生以上でもそれ以下でもない。仕事もしておらず、ゆすりたかりで暮らしている。それはつながりというよりは、一方的に結んだ関係だ。なによりゆかちゃんに対してふたりが持った恋心の現れ方には大きな差があった。どちらもゆかちゃんを見ていたくて付け回していたけれど、岡田くんと付き合っていると知ってからの二人には大きな差がある。ゆかちゃんも、安藤さんのことはストーカーとしては認識していない。

 

私はずっと森田くんが心配だった。返り血を浴びて、ドロドロに汗をかいた森田くん。一軒家で殺人を犯した後、サイズがちょっとあってないパジャマに着替える前にお風呂に入ったのかどうか。服は洗ったのかどうか。どんどん暗い色が増えていく彼のワードローブはどうやってメンテされているのか。体の小さい森田くんには持て余し気味の服。幻聴に悩み、アイマスクをしてイヤホンをしていても眠りが浅そうな森田くん。小さい身体で、自分の居場所を探す森田くん。カツアゲにあったとき、返り討ちにできなかった小さい森田くん。自身ではそんなことは微塵も意識してなさそうだけれど。

 

麦茶をつくってくれたお母さんは、今はどうしているのだろうか。広い庭と縁側をもつ、裕福そうな森田くんのご両親はどうしているのか。同居していた家族がいただろうけれど、その人達はどうしているのか。居場所は、殺人犯の家族にもあるのだろうか。

 

ヒメアノールというのは「ヒメトカゲという体長10cmほどの小型爬虫類で、つまり強者の餌となる弱者を意味」するらしい。誰が強者で誰が弱者かは映画を見るとわかるが、シチュエーションでも、強弱の軸を何にするかでも異なる。金か、暴力か、愛情か、友情か。

 

この映画には底辺の俺達というセリフがあるけれど底辺って何だろうか。鈴木大介さんの著作によれば、貧困層であっても「仲間」がいれば疎外感も少なく、社会との隔絶が起こらないために自らを貧しく厳しい境遇と認識しにくいという。福祉が負うべき貧困層と社会との接点をコミュニティで補完することは現在の社会において是であるという話は、この映画を見る上で参考になると思う。

 

 

tamako99.hatenablog.com

 

 

そんなわけで全く持ってお手軽お気楽なアイドル映画なんかではないし、本作での森田剛の演技はとんでもないので(ここをどう強調していいかわからない!でもすごいから!)、「森田剛ってチャラチャラしてるよね」と思う人ほど見て、裏切られてほしいと思います。私がV6ファンというのを差し引いても、この作品の森田剛はオススメ。

 

あと、これでムロツヨシ沼に落ちました…。まさかのこれで…。

  

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