桐野夏生 『デンジャラス』
大好きな作家、谷崎潤一郎の晩年の結婚生活とそれを取り巻く人々を題材にした作品です。
この作品、松子夫人とその妹さんとの生活を中心に描かれています。なぜこのタイミングで桐野夏生がこういった作品を書こうと思ったのか、私はまったく知りませんが(著者インタビューとか全く興味がないので)谷崎没後50年で著作権が切れ、青空文庫でもどんどん作品が公開されていることを考えると、新たなファンを増やす足がかりとしてもいいなぁ、と谷崎ファンとしては勝手に思っていたりします。
さて、作品の内容ですが、それはもうモヤモヤドロドロしたものが渦巻く、「ああ、これこれ、これは桐野夏生だな」と思わせるに充分な内容でした。ネットもなく、文学を中心とした生活による想像力の旺盛さと、自身の身の置き方・捉え方からくるプライド、そして迫ってくる老いと老いていく文豪の背中を見据えた文章にはゾワッとする瞬間がいくつもありました。自分自身が「中年真っ只中」になり「おばさん」と呼ばれる立場なことも、このゾワゾワに拍車をかけたように思います。
そんなゾワゾワを抱えながらも、中盤をすぎる頃には「このお話はどこに着地するのだろうか」と心配していたのですが、クライマックスで驚くような事が起きます。そこまでのおっとりした、ドロっとした、生暖かい主人公「重子」の中にこんなものがあったのか!という衝撃。そしてそれこそが谷崎らしいというか、谷崎文学に私達が求めていることだったりして、拍手喝采ヤンヤヤンヤという気分にもなりました。
谷崎の往復書簡や松子夫人の随筆などは読んでいないので(作品の周辺にあるものを読んでも小説が楽しめなくなる気がして読めない)ここに書かれたことがどこまで本当なのか私にはわかりませんが、参考文献や謝辞を読む限り関係者に取材した結果ということがわかります。これ、遺族の方々が了承してるとなるとすごいことですよ…。本当に谷崎という人は怪物というか、彼なりに一本筋の通っていた人なんでしょうね。