お題 『わたしの自立』
初めて一人暮らしをしたのは留学したとき。
それは「自立」というにはほどとおく、”自由”はさんざん謳歌したものの、それは「海外」という物理的な距離がもたらしたもので、金銭的には親のスネカジリで、とてもじゃないけど「自立」とは程遠かった。しかし一人で生活をやりくりし、親とも適度な距離感でいい関係を保てる、という自信を持つには十分な経験だった。
日本に戻ってきて数年が経ち、自分のお給料で暮らしていけるだろうという自信と目処がついたときにはすでに30歳目前だった。学生の時間が長く、その後の社会人生活も不規則極まりない&低収入だったため、実際に家を出られる自信が持てるまで時間がかかった。
親に相談すると引き止められるのはわかっていたので、内緒で不動産屋に物件紹介を依頼し、いくつか内見したい物件がでてきた時点で、「家を出る」「そのために保証人になってほしい」という話を親にした。
母は泣いた。
過保護な親で、30になろうという娘を「うちの子」と呼ぶ人だったので(これは今でも変わらない)、泣かれることは想定内だった。結局、父が味方になってくれて、母を説得してくれた。
それ以来、自分の城を築いて暮らしている。
いまでは息子を学校に行かせて、猫2匹と一緒に不自由ない暮らしだ。
ただ、精神的には自立できたか自信はない。今も母は私に帰国して、近くに住んでほしいようだ。大好きな孫の近くにいたい、という母の気持ちが時々ポロッと漏れてくるたびに、私は折れそうになる。
そのたびに父があのとき背中を押してくれたことを思い出す。タイに移住を決めたときにも快く送り出してくれたことを思うと、ああやって親元を離れていく子供の背中を押すのは本当はどんな気持ちだっただろうか、と思い、ポキっと折れそうになるのを押し留める。
私にとって自立とは、父のように子供の背中を押してあげられるときにやってくるものなのかもしれない、と思う。